日本の農業分野では、高齢化や後継者不足により、深刻な人手不足が続いています。こうした課題に対応するため、2019年に導入されたのが特定技能制度です。その中でも特定技能「農業」は、外国人材が農作業や畜産に従事できる在留資格として注目を集めています。本記事では、制度の概要や農業技能測定試験の対策、具体的な業務内容や雇用のルール、さらに農業特定技能協議会の役割まで、受け入れに必要な実務情報をわかりやすく解説します。
外国人材を適切に活用したい農業法人・事業者の方は、ぜひ最後までご覧ください。
対応業務の内容と雇用における注意点
特定技能制度では、外国人材が従事できる業務や雇用の形式に一定の基準が設けられています。農業分野特有の作業内容や就労環境を正しく理解し、受け入れ側が制度を順守することが重要です。
対象となる作業と農業・畜産の違い
農業分野において特定技能外国人が従事できる業務は、「耕種農業」と「畜産業」に分けられます。いずれも農林水産省が定めた基準に基づき、具体的な作業範囲が定められています。
耕種農業での主な業務
- 作物の種まき、育苗、収穫、選別、梱包
- 圃場の管理や除草作業
- 農作物の出荷準備や清掃作業など
畜産業での主な業務
- 飼料の準備・供給、家畜の健康管理
- 畜舎の清掃と消毒、糞尿処理
- 家畜の出産補助や体調観察 など
これらの業務は、日常的な作業に限られ、危険性の高い特殊作業や重機操作などは対象外とされています。また、季節性の高い業務が多いため、地域によって作業内容や期間に変動がある点にも留意が必要です。
雇用形態と直接雇用に関するルール
特定技能制度では、外国人労働者の雇用形態についても厳格なルールがあります。原則として「直接雇用」が義務づけられており、派遣会社などを通じた**間接雇用(派遣形態)**は原則認められていません。
また、受け入れる法人や農業事業者は以下の要件を満たす必要があります。
- 雇用契約書を明示し、業務内容・労働時間・賃金を明確に記載すること
- 外国人が日本人と同等以上の報酬で雇用されること
- 社会保険・労働保険への適切な加入が行われていること
- 法令に基づいた支援体制や生活支援が用意されていること
さらに、雇用に際しては「農業特定技能協議会」への登録も必要とされ、制度の適正運用を図る上での連携が求められます。
以上のように、業務内容だけでなく雇用の仕組みや条件の整備も、制度の運用上不可欠な要素となっています。
特定技能取得に必要な試験制度と手続きの流れ
特定技能農業分野で外国人を受け入れるためには、事前に所定の試験に合格し、在留資格「特定技能1号」の申請手続きを行う必要があります。これは制度の基本的な要件であり、雇用側・外国人双方にとって明確に理解しておくことが重要です。
農業技能測定試験の内容と出題傾向
農業分野での受け入れには、1号農業技能測定試験への合格が求められます。この試験は国内外で定期的に実施されており、対象となる職種は「耕種農業」と「畜産業」に分かれています。試験内容は実務に即した形式となっており、以下のような点が問われます。
- 栽培・収穫・選別などの基本作業に関する知識
- 畜産における家畜管理、安全衛生の基礎知識
- 作業時の注意点や適切な器具の取り扱い など
試験はCBT(コンピューター・ベースド・テスト)形式で実施され、日本国内でも指定された機関にて受験が可能です。試験の申込みはオンラインで行う形式が多く、開催日程や場所は「農業特定技能評価試験」の公式ページで確認できます。
日本語能力要件と試験対策のポイント
農業技能測定試験に加え、日本語能力の証明も必要となります。これは職場でのコミュニケーションや安全確保のために欠かせない要素とされています。
認められている日本語試験は以下のいずれかです。
- 日本語能力試験(JLPT)N4以上
- 国際交流基金日本語基礎テスト(JFT-Basic)
N4レベルは、日常生活の基本的な日本語を理解できる程度とされ、現場での簡単な指示や報告が行える水準です。特定技能外国人として登録するには、語学力の証明は必須条件であり、試験合格後すぐに在留資格の申請が行えるわけではないことにも注意が必要です。
実際の在留資格申請の際には、農業法人や雇用主側が支援計画を作成し、登録支援機関や協議会と連携して各種手続きを行う必要があります。出入国在留管理庁への書類提出や支援体制の整備など、一定の準備期間が必要となるため、余裕を持って計画を立てることが成功の鍵となります。
外国人受け入れに必要な手続きと支援体制
特定技能外国人を受け入れる際には、事業者側が制度の目的と運用ルールを理解し、適切な手続きと支援体制を整えることが必要です。特に農業分野では、雇用契約の作成や支援機関との連携など、いくつかの重要なステップを踏むことになります。
雇用契約・申請書類の基本
まず、特定技能1号の在留資格を申請する前提として、雇用契約の締結が必要です。この契約には、以下のような基本的な情報を明記しなければなりません。
- 従事する職種(耕種・畜産など)
- 労働時間、休日、給与の支払方法
- 加入する保険や社会保障制度
- 仕事内容の詳細と勤務地(国内のどの地域かを含む)
さらに、申請の際には以下のような書類を提出する必要があります。
- 雇用契約書
- 支援計画書(登録支援機関と連携する場合)
- 事業所の概要資料や労働条件通知書
- 在留資格認定証明書交付申請書(名義人:受け入れ機関)
これらの書類は、出入国在留管理庁に提出され、厳正な審査が行われます。内容に不備がある場合や、制度の趣旨に沿わないと判断された場合は、不許可となる可能性もあるため、慎重に確認しながら準備を行う必要があります。
登録支援機関と農業特定技能協議会の役割
外国人材の受け入れにあたっては、雇用主が登録支援機関と契約し、支援業務の一部を委託するケースが多く見られます。これは、特定技能制度の適正な運用と外国人の生活・就労支援を目的とした仕組みです。
登録支援機関が提供する主な支援内容は以下のとおりです。
- 入国前後の生活ガイダンス
- 住居確保や行政手続きの利用支援
- 就業先での相談対応やトラブルの未然防止
- 定期的な面談と報告業務
一方、農業特定技能協議会は、受け入れ事業者が所属する分野別の連絡機関であり、制度の円滑な運用と情報共有を目的としています。協議会への登録は義務ではありませんが、所属することで制度変更時の情報取得や相談対応がスムーズになるなど、多くのメリットがあります。
また、協議会は出入国在留管理庁や農林水産省との橋渡し役を担い、必要な申し込み手続きのサポートや関連資料(運用要領・ガイドライン等)の提供を行っています。
特定技能 農業についてよくある質問
可能な場合もありますが、転職には一定の条件があります。第三者への無断移籍は認められておらず、受け入れ機関の変更や新たな在留資格申請が必要です。事前に出入国在留管理庁の指示に従い、適切な手続きを行ってください。
外国人材が日常的に困るのは、生活面の支援が不十分な場合や、業務指示の伝達が曖昧なときです。文化や言語の違いも影響します。ご本人との対話や、社内での協力体制づくりが解決のカギになります。
農業分野は他の産業と比べて季節変動が大きく、作業も体力を要するケースが多いです。また、就労先が地方に集中する傾向があり、名義上の受け入れだけでなく、地域全体での協力体制が求められるのも特徴のひとつです。
まとめ:農業分野における外国人材活用の成功ポイント
特定技能農業制度は、人手不足に悩む農業産業にとって、即戦力となる外国人材を受け入れる有効な手段です。農業技能測定試験や日本語要件のクリアに加え、雇用契約や支援計画の準備、登録支援機関や農業特定技能協議会との連携など、受け入れには多面的な対応が求められます。制度の目的と運用ルールを正しく理解し、国内での円滑な受け入れを実現することが、今後の農業経営にとって大きな鍵となります。