工業製品製造業では、現場の人手不足が深刻化しています。こうした課題に対応するため、外国人材を受け入れる制度として「特定技能制度」が設けられ、この分野も対象に加わりました。本記事では、特定技能「工業製品製造業」分野の制度概要、対応できる業務、採用要件、企業の支援体制、在留資格の取得方法などをわかりやすく解説します。制度を活用したい企業の方に向けて、実務に役立つ情報を整理しています。
特定技能制度と工業製品製造業分野の概要
制度の背景と工業製品製造業が追加された経緯
日本の製造業では、長年にわたり人手不足の深刻化が続いてきました。特に中小規模の工場では、熟練した作業員の確保が難しく、生産ラインの維持すら困難になる事例も増えています。このような背景から、政府は特定技能制度を創設し、即戦力となる外国人材の受け入れを制度化しました。
この制度は2019年に始まり、当初からさまざまな産業分野が対象とされてきましたが、工業製品製造業分野についても人手不足が顕著であることから、対象業種として追加されました。製造現場では、単純作業にとどまらず、設備の操作・精密な加工・工程管理など、一定の専門性を伴う業務が多く存在することが理由の一つです。
この分野で受け入れられる特定技能外国人は、現場での実践的な作業を中心に従事することが前提となっており、業務の内容や水準については経済産業省が明確な基準を設けています。
対象となる業種・職種の区分と範囲
工業製品製造業分野における特定技能外国人の受け入れは、一定の区分に属する業種・職種に限定されています。以下のような産業区分が対象となっており、それぞれに対応する業務が明確に定義されています。
- 素形材産業(鋳造、鍛造、めっきなど)
- 産業機械製造業(機械加工、組立など)
- 電気・電子情報関連製造業(電子機器製造、基板実装など)
これらの区分は、「産業機械電気電子情報関連分野」と呼ばれることもあり、高度な技術よりも、現場での実務経験や基本操作の理解が重視される職種が多いのが特徴です。
また、業種ごとに対応可能な業務内容が細かく設定されており、事前に制度上の該当性を確認しておくことが重要です。特に、技能実習制度との整合性や過去の実務経験が要件に関わる場合もあるため、職種区分ごとの最新情報を出入国在留管理庁や協議会サイトでチェックすることが推奨されます。
工業製品製造業における受け入れは、製造工程の安定化や人材の多様化を図るうえで有効な選択肢として、今後さらに活用が進むと考えられています。
特定技能外国人が従事できる具体的な業務内容

対応可能な製造業務と専門性の水準
工業製品製造業分野において、特定技能外国人が従事できるのは、製造現場で実際に手を動かす実務的な作業です。対象となる業務には、以下のようなものが含まれます。
- 製品の加工・組立
- 製品の検査・梱包
- 機械操作や装置の簡易な調整
- 精密部品の取り付けやはんだ付け
業務の内容は、素形材産業、産業機械製造業、電気電子情報関連製造業といった産業区分ごとに定められています。それぞれの分野では、以下のような作業が想定されます。
- 素形材産業:鋳造、鍛造、めっきなどの工程作業
- 産業機械製造業:部品加工や組立、出荷前の調整
- 電気電子情報関連製造業:基板実装、組立、検品など
これらの業務はいずれも、高度な資格は不要ながら、一定の習熟と安全管理意識が求められる作業です。そのため、企業側には現場教育やOJTの仕組みが欠かせません。
また、制度上の該当性があるかどうかは、出入国在留管理庁や経済産業省が定めた基準に沿って確認する必要があります。不明点がある場合は、登録支援機関や分野別協議会への相談が推奨されます。
経験・技能実習2号修了との関係
技能実習2号を修了している外国人については、特定技能制度への移行にあたって評価試験が免除されるケースがあります。特に、工業製品製造業に関連する職種で実習経験を積んでいれば、その経験を生かしてスムーズな移行が可能です。
免除対象となる具体的なケース
- 技能実習2号で「機械加工」「電子部品組立」などの職種を修了している
- 実習成績が良好で、在留資格の変更要件を満たしている
- 該当職種が特定技能分野の職種リストに含まれている
一方で、すべての技能実習職種が対象になるわけではありません。制度上の「職種一致」が確認できない場合は、評価試験を受ける必要があります。実務経験があっても、分野が異なるとみなされた場合は、再度試験を経て資格を取得する必要があります。
企業側としては、候補者の実習歴や取得済みの証明書を事前に確認し、制度上の条件に合致しているか慎重に見極めることが求められます。
採用に必要な要件と在留資格の取得手続き
特定技能1号の取得条件と評価試験の内容
工業製品製造業分野で特定技能外国人を採用するには、特定技能1号の在留資格を取得することが必要です。取得には、所定の評価試験への合格、または技能実習2号の修了実績が前提となります。
評価試験は、分野に応じて実施されており、対象業務に必要な技能や知識を確認する内容となっています。試験は、国内外で定期的に実施されており、受験言語や出題範囲も明示されています。
主な試験構成
- 技能評価試験(筆記・実技):作業手順、工具の扱い、品質管理などの知識を問う
- 試験の形式:CBT(コンピュータ方式)または実技試験のいずれか
- 合格基準:各分野の協議会や実施機関が定める正答率に基づく
評価試験に合格すると、「技能評価試験合格証明書」が発行されます。これは、在留資格認定証明書の申請時に必要な書類の一つです。
なお、技能実習2号を修了している場合は評価試験が免除される可能性があり、過去の実習履歴を確認することが重要です。
在留資格の申請に際しては、企業側が書類を準備し、外国人本人とともに出入国在留管理庁へ手続きを行います。
提出が必要な主な書類
- 在留資格認定証明書交付申請書
- 雇用契約書および支援計画書
- 試験合格証明書または技能実習修了証明書
- 登録支援機関に関する届出書類(委託する場合)
- 登記簿謄本や決算書など、企業情報に関する証明
すべての書類が整い、審査を通過すれば、特定技能1号の資格で在留・就労が可能となります。
日本語能力や追加要件の確認ポイント
工業製品製造業分野では、評価試験に加えて、日本語能力の確認も採用要件の一つとなっています。これは現場でのコミュニケーションや安全確保のために重要視されているポイントです。
日本語の要件を満たすには、以下のいずれかの試験に合格していることが必要です。
- 日本語能力試験(JLPT)N4以上
- 国際交流基金日本語基礎テスト(JFT-Basic)
これらの試験に合格していることが、在留資格申請の際に提出すべき要件のひとつとなります。
また、職種や就業先によっては、追加で条件が設定されている場合もあります。たとえば、特定の工程において安全講習の修了を求める企業や、夜勤対応可能な就労体制を求めるケースも見られます。
制度上の条件だけでなく、実際の職場環境に応じて求められる能力が異なるため、採用前にしっかりと条件を整理し、候補者の経験やスキルとのマッチングを確認することが、円滑な受け入れにつながります。
企業が満たすべき受け入れ条件と支援体制
雇用契約・支援計画の作成と登録支援機関との連携
外国人を特定技能で受け入れる企業は、単に人材を雇用するだけでなく、制度上の条件を満たす体制整備が求められます。その第一歩が、雇用契約と支援計画の整備です。
雇用契約には、以下のような情報を明記する必要があります。
- 業務内容や勤務地
- 労働時間、休日、賃金
- 雇用期間や契約更新に関する条件
- 労働災害や健康保険に関する対応
これらの契約条件は、日本人と同等以上であることが前提とされています。また、特定技能外国人に対しては、生活や職場適応のための支援計画も用意しなければなりません。
支援計画には、次のような内容を含めます。
- 日本到着時の空港送迎、住居確保のサポート
- 銀行口座開設、携帯電話契約、役所手続きの補助
- 生活ルールやマナーの説明、相談体制の確保
- 日本語学習支援、定期的な面談やフォローアップ
こうした支援は、企業自身で行うか、登録支援機関に委託することで対応が可能です。初めて外国人材を受け入れる企業の場合は、経験豊富な支援機関との連携がトラブル回避にもつながります。
登録支援機関を利用する場合は、出入国在留管理庁に正式に登録されていることを確認しましょう。委託した場合でも、支援が適切に実施されているかを企業が把握・管理する責任は残ります。
協議会・協議連絡会への参加と管理責任
工業製品製造業分野で外国人材を受け入れる企業は、制度全体の適正な運用のために、分野別協議会や協議連絡会への参加が推奨されています。これらの団体は、受け入れ状況の共有や情報提供、制度の改善提案などを担っています。
企業が協議会と連携するメリット
- 制度変更や運用ルールの最新情報を取得できる
- 他社の受け入れ事例や問題点を共有できる
- 労務トラブルや行政対応のノウハウを得られる
また、企業には受け入れ後の管理責任も課されています。特定技能外国人の勤務状況、支援計画の実施状況、就業環境の維持などに関して、出入国在留管理庁への定期報告が義務付けられています。
報告義務の一例
- 勤務実績(月ごとの出勤日数・労働時間)
- 支援実施記録(生活支援の内容・頻度)
- 変更事項(雇用条件の変更、退職など)
これらの報告を怠ると、次回以降の受け入れが制限される場合もあります。企業は、制度を正しく理解し、適切な書類管理と情報共有の体制を整えておくことが重要です。
雇用時の注意点と制度運用上の課題
賃金・労働時間・トラブル防止策
特定技能外国人を工業製品製造業分野で受け入れる際は、労働条件の適正な管理が特に重要です。制度上、外国人材は日本人と同等以上の待遇が義務付けられており、企業側の意識と体制が問われます。
以下は、特に注意すべきポイントです。
- 賃金は日本人と同等水準で設定し、業務内容に応じた昇給制度も検討する
- 残業・深夜労働の際は法定通りの割増賃金を支給する
- 労働時間・休憩・休日について就業規則と契約内容を明確にする
- ハラスメント防止や多文化共生に関する社内教育を行う
外国人労働者との間にトラブルが発生する要因としては、言語の壁や認識のズレ、生活習慣の違いなどが挙げられます。これを防ぐためには、入社前からの丁寧な説明、定期的な面談、相談窓口の設置が効果的です。
また、支援計画の一環として、労務・生活面の相談対応を行う担当者の配置も重要です。登録支援機関に委託している場合でも、企業がその内容を把握し、必要に応じて補完的な支援を行う姿勢が求められます。
出入国在留管理への提出書類と更新手続き
在留資格「特定技能1号」は原則として1年ごとの更新制です。そのため、受け入れ企業は定期的に必要書類を準備し、出入国在留管理庁に提出する義務があります。
主な提出書類
- 雇用状況報告書(業務内容、労働時間、支援実施状況など)
- 在留資格更新申請書および関連添付書類
- 支援記録(面談記録、生活支援内容などの実施履歴)
- 所属機関の体制変更や代表者変更があった場合の届出書
これらの提出は期日が定められており、提出遅れや内容不備は更新審査に影響を及ぼす可能性があります。特に変更があった場合には、遅滞なく報告・届出する必要があります。
さらに、在留資格の更新にあたっては、本人の勤続状況や勤務態度、企業の管理体制も確認されます。更新が認められなかった場合は、雇用を継続できなくなるため、継続的な管理と記録の保存が不可欠です。
制度を安定的に活用するには、法的手続きを日常業務の一部として定着させることが重要です。業務担当者が更新スケジュールを把握し、適切に準備を進める体制を整えておきましょう。
特定技能外国人を活用するメリットと今後の展望

国内の人手不足への対応と制度の有効性
工業製品製造業分野は、日本のものづくりを支える重要な基幹産業ですが、慢性的な人材不足が続いています。特に、製造ラインでの実務を担う人材は確保が難しく、安定した生産体制の維持が大きな課題となっています。
このような現場の課題に対し、特定技能制度の導入は即戦力人材の確保という面で大きな効果を発揮しています。制度の活用により、以下のようなメリットが期待できます。
- 必要なスキルを持った外国人材を計画的に確保できる
- 技能実習からの移行により、即戦力としての雇用が可能
- 現場での定着支援により離職率を抑制できる
- 多様なバックグラウンドを持つ人材によって職場が活性化される
特定技能1号は、一定の技能と日本語能力を証明した人材のみが対象となるため、基礎的な実務遂行能力と現場理解を有する点も安心材料です。これにより、教育負担の軽減と生産性の維持を両立しやすくなります。
製造業全体への影響と活用事例の紹介
特定技能制度の活用は、単なる人手補充にとどまらず、製造業全体の構造的な人材確保の一助となっています。すでに多くの企業が制度を導入し、現場に変化が生まれています。
具体的な導入効果
- 「熟練工の補助として着実に戦力になっている」
- 「夜勤やシフト対応も可能で、現場の負担が軽減された」
- 「多国籍チームによる生産現場の活性化を感じている」
また、支援体制が整っている協同組合や登録支援機関と連携することで、受け入れ後の生活・労務面のトラブルも少なく、長期定着につながるケースが多いのが実情です。
特に、オープンケア協同組合(https://opcare.jp)のように、製造業分野に精通し、外国人材の生活・職場定着支援に強みを持つ支援組織の存在は、初めて特定技能を活用する企業にとって心強いパートナーとなります。
今後も制度は見直し・拡充が続く可能性があり、各企業は最新情報を確認しながら、戦略的な人材活用を検討していくことが重要です。
工業製品製造業分野における特定技能の活用ポイント
特定技能「工業製品製造業」分野は、製造現場の人材不足を補い、安定した生産体制を維持するための有効な制度です。対象職種や業務内容が明確に定められており、採用には評価試験の合格や在留資格の申請、企業による支援体制の構築が欠かせません。制度を正しく理解し、支援機関などと連携しながら受け入れを進めることで、外国人材の戦力化と長期定着が実現できます。今後の製造業にとって、制度活用は人材確保の重要な選択肢となるでしょう。