日本で働く技能実習生が、より長期的に就労できる制度として特定技能制度が注目されています。
特に、技能実習2号または技能実習3号を修了した方は、一定の条件を満たすことで特定技能1号へ移行することが可能です。
しかし、移行のためには在留資格変更の手続きや必要書類の準備が必要であり、適切な準備を行わなければなりません。また、特定技能制度の対象職種や雇用条件をしっかり理解しておくことも重要です。
本記事では、技能実習生が特定技能へ移行する方法を詳しく解説します。移行条件、必要な手続き、書類、雇用の注意点などを網羅し、スムーズに移行するためのポイントを紹介します。日本でのキャリアを継続したい方は、ぜひ最後までご覧ください。
技能実習から特定技能への移行とは?
技能実習制度は、発展途上国の人材が日本の技術や知識を学ぶための制度ですが、一定の条件を満たすと特定技能制度へ移行することが可能です。
特定技能制度は、人手不足が深刻な産業分野で即戦力となる外国人労働者を受け入れるために設立された制度であり、技能実習生として培った経験を活かしながら、より安定した雇用を得ることができます。
技能実習から特定技能へ移行する主な理由
- 日本で長期的に働き続けることができる
(特定技能1号は最長5年の在留が可能) - 同じ職種・作業でスキルを活かせる
(技能実習で培った技術をそのまま活用) - 転職が可能になる
(技能実習では企業変更が制限されているが、特定技能では転職が認められる場合がある) - 賃金・待遇が向上する可能性がある
(特定技能の労働条件は日本人と同等以上である必要がある)
では、技能実習と特定技能の具体的な違いを詳しく見ていきましょう。
技能実習と特定技能の違い
技能実習制度と特定技能制度には、大きな違いがあります。それぞれの特徴を比較すると、以下のようになります。
項目 | 技能実習 | 特定技能1号 |
目的 | 技術移転・国際貢献 | 人手不足解消・即戦力確保 |
在留期間 | 最長5年(1号:1年、2号:2年、3号:2年) | 最長5年(更新可) |
転職の可否 | 原則不可 | 条件を満たせば可能 |
対象職種 | 限定された職種・作業 | 14分野(介護、建設、外食業など) |
試験の有無 | 不要(企業による実習計画が必要) | 技能試験・日本語能力試験に合格が必要 |
賃金水準 | 日本人と同等以上が推奨されるが、実際は低め | 日本人と同等以上が義務付けられている |
特定技能へ移行することで、転職の自由度が増し、待遇面でも改善が見込めるため、多くの技能実習生が特定技能制度への移行を希望しています。
技能実習2号・3号から特定技能1号へ移行する条件
技能実習2号または3号を修了した技能実習生は、一定の条件を満たせば特定技能1号への移行が可能です。移行するためには、以下の要件を満たす必要があります。
特定技能1号へ移行するための主な条件
- 技能実習2号または3号を良好に修了していること
- 在留資格「特定技能1号」への変更申請を行うこと
- 特定技能制度の対象職種であること
(介護、建設、外食業など) - 雇用先の企業が適切な受け入れ体制を整えていること
- 在留期間が満了する前に適切な手続きを行うこと
技能実習2号を修了し、特定技能制度の対象職種で引き続き働く場合は、新たに技能試験や日本語試験を受ける必要がないため、スムーズに移行が可能です。ただし、特定技能1号の受け入れ要件を満たしている企業でなければなりません。
次に、技能実習2号を良好に修了するための具体的な要件について詳しく解説します。
実習2号を良好に修了する要件
技能実習2号を良好に修了したと認められるためには、以下の条件を満たす必要があります。
- 技能実習2号の在留資格で、規定の期間(通常2年間)を問題なく修了していること
- 技能実習の計画に基づき、適切に実習を行っていたこと
- 実習先企業での勤務態度や成績が良好であったこと
- 技能検定基礎級またはこれに相当する試験に合格していること
これらの条件をクリアしている場合、技能実習2号を修了後、特定技能1号への移行が認められることになります。一方で、途中で実習を中断した場合や、実習先企業で問題を起こした場合は、移行が難しくなる可能性があるため注意が必要です。
特定技能制度の対象職種と業務内容
特定技能制度は、日本の人手不足を補うための在留資格であり、14の産業分野が対象となっています。これらの分野は、即戦力となる外国人材を受け入れるために設けられ、技能実習2号を修了した実習生が引き続き働くことができる業種が多く含まれています。
特定技能制度の特徴
- 即戦力としての就労が求められる
(技能実習とは異なり、教育目的ではなく労働力として雇用) - 日本人と同等以上の待遇が保証される
(賃金や労働環境の面で優遇) - 業務内容が限定されている
(各分野ごとに定められた業務範囲内で働く)
次に、特定技能制度で認められている具体的な産業分野と作業職種について詳しく見ていきましょう。
移行可能な産業分野と作業職種一覧
特定技能1号の対象となる14の産業分野は以下の通りです。
参考URL:https://jsite.mhlw.go.jp/shiga-roudoukyoku/content/contents/001101376.pdf
産業分野 | 主な業務内容 |
介護 | 高齢者の介護、生活支援、リハビリ補助 |
ビルクリーニング | 建物内の清掃業務 |
素形材産業 | 鋳造、溶接、鍛造などの加工業務 |
産業機械製造業 | 機械部品の組み立て、加工 |
電気・電子情報関連産業 | 電気機器の製造・組み立て |
建設 | 型枠施工、鉄筋施工、左官などの建設作業 |
造船・舶用工業 | 船舶部品の製造・組み立て |
自動車整備 | 車両の点検、整備、修理 |
航空 | 空港内での手荷物搬送、貨物取扱い |
宿泊 | ホテル・旅館での接客、清掃、調理補助 |
農業 | 露地・施設栽培、畜産業務 |
漁業 | 漁獲作業、養殖作業 |
飲食料品製造業 | 食品加工、品質管理、機械オペレーション |
外食業 | 飲食店での接客、調理、配膳 |
技能実習2号でこれらの業種に従事していた場合、特定技能1号へ移行し、引き続き日本で働くことが可能です。
また、特定技能1号では転職が可能なため、同じ産業分野内であれば他の企業へ移ることもできるのが特徴です。ただし、業種の変更は認められないため、特定技能の対象職種以外への転職は不可となっています。
在留資格変更の手続きと必要書類
技能実習2号または3号を修了し、特定技能1号へ移行するには、在留資格変更許可申請を行う必要があります。この手続きは、法務省の出入国在留管理庁(入管)で受け付けています。
在留資格変更の手続きの流れ
- 雇用先の企業を決定する
(特定技能1号の受入れ機関と契約を結ぶ) - 必要書類を準備する
(企業と本人がそれぞれ提出書類を用意) - 入管に申請を行う
(管轄の地方出入国在留管理局へ提出) - 審査・結果通知を待つ
(審査期間は約1~2か月※2025年1月以降は手続きの増加が予想されるため特に余裕を持ったスケジュールがおすすめです) - 在留カードの受領
(許可が下りたら新しい在留カードを受け取る)
手続きの期間は、申請内容や審査状況によって異なります。在留期間満了の2~3か月前には準備を開始することを推奨します。
では、申請に必要な書類について詳しく見ていきましょう。
在留期間延長に必要な申請書類
在留資格変更の申請には、以下の書類が必要です。
技能実習生本人が準備する書類
- 在留資格変更許可申請書
(入管の公式サイトからダウンロード可能) - パスポートおよび在留カードのコピー
- 技能実習2号の修了証明書
(技能実習を修了したことを証明するもの) - 日本語能力試験(N4以上)の合格証明書
(※一部の業種では不要) - 技能試験の合格証明書
(※技能実習2号修了者は免除の場合あり) - 顔写真(4cm×3cm、申請前3か月以内に撮影)
雇用先の企業が準備する書類
- 雇用契約書の写し
(労働条件を明記したもの) - 支援計画書
(生活支援や業務研修に関する計画) - 企業の登記事項証明書
(受入れ機関の正式な登録証明) - 給与支払能力を示す書類
(直近の決算書や納税証明書など)
企業側の支援体制が不十分な場合、申請が認められないこともあるため、事前に確認しておくことが重要です。
技能試験と日本語能力要件について
特定技能1号へ移行するためには、一定の技能試験と日本語能力試験に合格することが必要です。ただし、技能実習2号を良好に修了した場合は、試験が免除される特例措置があります。
特定技能1号の試験要件
- 【技能試験】
- 産業分野ごとに設定された特定技能評価試験に合格する必要がある
- 技能実習2号修了者は、原則として試験免除(ただし、一部業種では受験が必要)
- 【日本語能力試験】
- 一般的には日本語能力試験(JLPT)N4以上の合格が求められる
- または**日本語基礎テスト(JFT-Basic)**の合格も可
次に、特定技能1号に求められる具体的な試験内容について詳しく解説します。
特定技能1号に求められる日本語能力と技能試験
① 日本語能力の要件
特定技能1号では、日本での日常会話が可能で、業務上必要な日本語を理解できるレベルが求められます。そのため、以下のいずれかの試験に合格する必要があります。
- 日本語能力試験(JLPT)N4以上
(基本的な日本語を理解できるレベル) - JFT-Basic(日本語基礎テスト)A2レベル以上
(簡単な会話や指示を理解できるレベル)
ただし、介護分野ではN3以上の日本語能力が求められるため注意が必要です。
② 技能試験の内容
特定技能1号の対象職種ごとに、**技能試験(特定技能評価試験)**が実施されています。試験は以下の形式で行われます。
- 筆記試験
(業務に関する基本知識を問う) - 実技試験
(職種ごとの技能を評価)
以下に、いくつかの主要産業の技能試験の例を紹介します。
産業分野 | 試験名 | 実施機関 |
介護 | 介護技能評価試験 | 日本国際福祉機構 |
建設 | 建設分野特定技能評価試験 | 建設技能人材機構 |
外食業 | 外食業技能測定試験 | 日本フードサービス協会 |
自動車整備 | 自動車整備特定技能評価試験 | 日本自動車整備振興会 |
技能実習2号を良好に修了した場合、これらの技能試験は免除されますが、日本語試験の要件を満たす必要があります。
企業の受け入れ体制と雇用の注意点
特定技能1号の外国人を雇用する企業(受入れ機関)は、適切な受け入れ体制を整え、法的要件を満たす必要があります。 特定技能制度では、外国人労働者の適正な労働環境を確保するため、受入れ企業が一定の条件を満たしているかが厳しく審査されます。
企業が特定技能人材を受け入れる際の主なポイント
- 適正な雇用契約の締結
(特定技能外国人の労働条件が日本人と同等以上であること) - 適切な労働環境の整備
(長時間労働や低賃金にならないよう配慮) - 外国人支援計画の策定と実施
(生活支援・業務サポートなど) - 受入れ機関の法令順守状況の確認
(過去に不正行為がないこと) - 定期的な報告義務
(出入国在留管理庁への報告が義務付けられている)
また、特定技能2号(建設・造船業のみ)に移行する場合、さらに厳しい受入れ要件が設けられるため、企業側の対応が求められます。
では、企業が外国人を受け入れる際に必要な要件について、詳しく見ていきましょう。
受入れ機関の要件と計画策定
特定技能外国人を雇用するために、受入れ機関(企業)は以下の要件を満たす必要があります。
① 受入れ機関の基本要件
- 法令を順守している企業であること
(過去に技能実習生の不正雇用がないこと) - 適切な労働環境を提供できること
(特定技能外国人に適正な賃金・労働条件を保証) - 外国人支援計画を策定・実施すること
(日本語学習の支援や生活サポートを行う) - 定期的な監査・報告を行うこと
(受け入れ状況を出入国在留管理庁に報告)
② 外国人支援計画の内容
特定技能1号の外国人を受け入れる企業は、以下のような支援を行う必要があります。
✅ 生活サポート
- 住居の確保(寮の提供、契約のサポートなど)
- 公共サービスの利用方法の説明(銀行口座開設、携帯電話契約など)
- 医療機関の案内(病院の利用方法の説明)
✅ 業務サポート
- 業務上のルールや安全管理の指導
- 日本語能力向上のための支援
✅ 社会生活支援
- 交通機関の利用方法の説明
- 地域コミュニティとの交流支援
企業がこれらの支援計画を適切に実施しない場合、外国人労働者の受け入れが認められないこともあります。
技能実習から特定技能への移行のメリットとデメリット
技能実習制度から特定技能制度へ移行することで、技能実習生本人や受入れ企業にとって多くのメリットがあります。しかし、一方でいくつかのデメリットや注意すべき点も存在します。ここでは、それぞれの視点からメリットとデメリットを整理して解説します。
技能実習生にとってのメリット
- 【長期間の就労が可能】
最長5年間の在留が認められ、特定技能2号へ移行すればさらに長期滞在が可能。 - 【転職の自由度が上がる】
技能実習制度では転職が原則禁止だが、特定技能1号では同じ業種内での転職が認められる。 - 【賃金や労働条件が向上する】
労働条件は日本人と同等以上であることが義務付けられており、給与の改善が期待できる。 - 【家族の帯同が可能になる可能性がある】
特定技能1号では家族の帯同は認められていないが、特定技能2号へ移行すれば配偶者や子供の帯同が可能になる。
技能実習生にとってのデメリット・注意点
- 【試験の受験が必要】
技能実習2号を修了していれば技能試験は免除されるが、日本語能力試験が必要な場合がある。 - 【受入れ企業が見つからないと移行できない】
在留資格の変更には雇用契約が必須であり、特定技能人材を受け入れる企業が見つからないと移行できない。 - 【一部の業種では転職が制限される】
特定技能1号では、許可された産業分野以外への転職は認められない。
では、企業側の視点でのメリットと課題を見ていきましょう。
技能実習生と企業にとっての利点と課題
企業側にとっても、特定技能制度には多くの利点がある。
- 【人手不足の解消が期待できる】
特定技能制度は、慢性的な人手不足に対応するために設立された制度であり、即戦力として働ける外国人を確保できる。 - 【採用コストが削減できる】
技能実習制度と異なり、監理団体を介さずに直接雇用できるため、手数料や管理費の負担が軽減される。 - 【長期雇用が可能になる】
特定技能1号では最長5年間の就労が可能であり、特定技能2号へ移行すれば更なる長期雇用も可能になる。
一方で、企業側には以下の課題もある。
- 【受け入れ要件が厳格化されている】
外国人労働者を適切に管理するため、労働条件の適正化や外国人支援計画の策定が義務付けられている。 - 【定期的な報告義務が発生する】
受入れ企業は、特定技能外国人の就労状況や支援内容を定期的に出入国在留管理庁へ報告する必要がある。 - 【支援計画の策定と実施が求められる】
生活支援や職場での指導を行う必要があり、外国人労働者の適応をサポートする体制が求められる。
企業にとっては、人手不足の解消や採用コストの削減といったメリットがあるものの、適切な受け入れ体制を整えなければならない点に注意が必要である。
まとめ:日本で働き続けるために必要な準備
技能実習生が特定技能へ移行することで、日本での就労期間を延ばし、より安定した雇用環境を得ることが可能になります。しかし、移行にはいくつかの条件や手続きが必要となるため、計画的な準備が重要です。
ここまで解説したように、技能実習2号を良好に修了することが基本条件となり、その後、特定技能の対象職種で適切な受け入れ先を確保することが求められます。企業側も、外国人労働者の受け入れ体制を整え、支援計画を策定することが義務付けられています。
最後に、スムーズに移行するために重要なポイントを整理します。
スムーズに移行するためのポイント
- 【技能実習期間中の実績を積む】
技能実習2号を良好に修了することが、特定技能への移行の前提条件となる。日々の業務を真面目にこなし、実習先の企業からの評価を得ることが重要。 - 【特定技能の対象職種を確認する】
移行を希望する業種が特定技能の対象となっているか事前に調べ、自分がどの分野で働けるのか把握しておく。 - 【雇用先の企業を見つける】
特定技能1号では、受け入れ企業との雇用契約が必要。技能実習期間中に信頼関係を築き、移行後の雇用について相談しておくことが望ましい。 - 【必要な試験に備える】
日本語能力試験(JLPT N4以上)や特定技能評価試験が必要な場合は、事前に試験対策を行い、移行に備える。 - 【在留資格変更の手続きを早めに進める】
在留期間の満了前に余裕を持って書類を準備し、申請を行うことでスムーズな移行が可能となる。
技能実習から特定技能への移行は、日本でのキャリアを広げる大きなチャンスとなります。適切な準備と手続きを行い、確実に移行できるよう計画的に進めていくことが大切です。
企業様の人手不足を解消する有効な手段として、特定技能を選択される企業様が増えています。本記事をご覧いただいた企業様についても人手不足の解消に向けて技能実習・特定技能導入を検討されてみてはいかがでしょうか。
本記事の項目毎の詳しい解説については技能実習から特定技能への移行手続き完全ガイド|必要書類と申請の流れを解説等をご参照ください。