日本の労働市場では、特に人手不足が深刻な業種において外国人材の受け入れが重要な課題となっています。その中で、技能実習制度と特定技能制度は、多くの企業にとって必要不可欠な外国人雇用の手段となっています。
技能実習2号を修了した外国人労働者が特定技能1号へ移行することで、長期間の就労が可能になり、企業にとっても安定的な人材確保につながるメリットがあります。しかし、移行には管理コストの増加や転職の自由化によるリスクも伴います。
本記事では、企業の視点から「技能実習」と「特定技能」の違いを整理し、移行によるメリット・デメリットを詳しく解説します。特定技能への移行を検討する際の判断材料として、ぜひご活用ください。
技能実習と特定技能の違いとは?
企業が外国人材を受け入れる際、技能実習制度と特定技能制度のどちらを選択するかは事業の目的や人材活用の方針によって異なります。 それぞれの制度には、受け入れ目的、就労期間、転職の可否、受け入れ企業の義務などの違いがあるため、事前に制度の特徴を理解し、自社に適した選択をすることが重要です。
制度の目的と企業が受け入れる際の基本的な違い
項目 | 技能実習制度 | 特定技能制度 |
目的 | 開発途上国への技術移転 | 日本の人手不足解消 |
在留資格の種類 | 技能実習1号・2号・3号 | 特定技能1号・特定技能2号 |
就労期間 | 最長5年(1号1年、2号2年、3号2年) | 最長5年(1号)、無期限(2号) |
対象業種 | 87職種(2024年時点) | 14分野(1号)、2分野(2号) |
転職の可否 | 原則不可(同一企業で継続就労) | 同一業種内で転職可能 |
企業の義務 | 技能実習計画の作成、監理団体の管理下で運用 | 外国人支援計画の策定、労働条件の適正化 |
受け入れ人数 | 企業規模に応じた制限あり | 一部業種に人数制限あり |
試験の必要性 | 技能検定試験(基礎級・3級)が必須 | 技能試験・日本語試験が必要(技能実習2号修了者は免除) |
技能実習制度は、外国人が日本の技術や知識を学び、母国に持ち帰ることを目的とした制度であるため、基本的に転職は認められず、特定の業務に限定されます。
一方で、特定技能制度は即戦力の確保を目的とした制度であり、一定の条件を満たせば転職が可能で、企業が自由に採用・雇用契約を結ぶことができます。
企業がどちらの制度を選ぶかは、自社の業務内容や人材活用の方針によるため、移行のメリット・デメリットを十分に理解した上で適切な選択を行うことが重要です。
技能実習から特定技能へ移行するメリット
技能実習2号を修了した外国人を特定技能1号へ移行させることで、企業側にとって大きなメリットがあります。 技能実習制度では、一定期間で帰国する必要がありますが、特定技能1号へ移行することで、長期間にわたる雇用が可能になり、人材の安定確保につながります。
また、特定技能1号では、技能試験の免除が認められるケースもあり、企業にとっては実務経験を持つ外国人労働者を即戦力として活用できる利点があります。
人材確保の安定化と雇用期間の延長
- 最長5年間の継続雇用が可能
- 技能実習制度では最長5年で帰国が必要ですが、特定技能1号へ移行すれば、同じ企業で最長5年間の継続就労が可能。
- 特定技能2号へ移行できる業種であれば、無期限の在留も可能となり、長期的な人材確保が実現できる。
- 即戦力として活躍できる
- 技能実習2号を修了した外国人は、日本の業務環境や作業手順に慣れているため、新たに雇用するよりも即戦力として活用しやすい。
- 日本語や業務スキルも一定水準に達しているため、新規採用の特定技能外国人よりもスムーズに現場に適応できる。
- 新規採用よりも教育コストを抑えられる
- 技能実習生としての経験があるため、基礎的な技術指導が不要で、企業の教育コストを削減できる。
- 受け入れ企業としても、既に業務内容や企業文化を理解している人材を継続雇用できるため、新規雇用のリスクを抑えられる。
- 試験免除により手続きがスムーズ
- 技能実習2号を「良好に修了」した場合、特定技能評価試験が免除される。
- 日本語試験(JLPT N4相当)も免除されるケースがあるため、移行手続きの負担が軽減される。
企業にとっては、経験のある外国人労働者を継続して雇用できることが、特定技能1号への移行の最大のメリットとなります。長期間にわたり、安定的に人材を確保することで、採用コストや教育コストの削減にもつながります。
即戦力としての活用と業務の幅の拡大
技能実習2号を修了した外国人が特定技能1号へ移行することで、企業は即戦力としての人材を確保でき、業務範囲を拡大することが可能になります。 技能実習制度では、研修的な側面が強く、業務内容が制限されていましたが、特定技能1号ではより高度な作業や責任ある業務を担当できるため、企業の生産性向上にもつながります。
1. 技能実習時の「補助作業」から、特定技能で「主体的な業務」へ
2. 指導が不要になり、業務効率が向上
3. 業務範囲の制限が緩和される
4. 長期的な人材活用が可能になり、定着率が向上
特定技能1号へ移行することで、企業は即戦力を確保でき、教育コストの削減と業務の効率化が実現可能になります。特に、人手不足の業界では、技能実習制度に比べてより柔軟な雇用ができるため、大きなメリットとなります。
試験免除による移行のしやすさ
技能実習2号を修了した外国人が特定技能1号へ移行する場合、特定の条件を満たせば試験が免除されるため、スムーズな移行が可能になります。通常、特定技能1号へ移行するには技能試験と日本語能力試験の合格が必要ですが、技能実習2号を「良好に修了」した外国人は、これらの試験が免除されるため、企業にとっても移行手続きの負担が軽減されるというメリットがあります。
1. 試験免除の対象となる条件
技能実習2号を修了した外国人が、以下の条件を満たしている場合、特定技能の試験が免除されます。
2. 免除対象となる試験
試験の種類 | 免除の可否 |
技能試験(特定技能評価試験) | 免除(技能実習2号を良好に修了している場合) |
日本語試験(JLPT N4相当またはJFT-Basic A2) | 免除(技能実習2号を修了している場合) |
試験が免除されることで、外国人労働者は特定技能への移行手続きが迅速に進み、企業側も新たな試験受験の手間が不要となるため、移行のハードルが大幅に下がります。
3. 企業にとってのメリット
4. 企業が注意すべき点
試験免除が適用されることで、企業は新たに特定技能の外国人労働者を採用するよりも、スムーズに即戦力を確保できるため、技能実習2号からの移行は大きなメリットとなります。
技能実習から特定技能へ移行するデメリット
技能実習2号を修了した外国人が特定技能1号へ移行することには、多くのメリットがある一方で、企業側にとってはリスクや負担が増加する可能性もあります。 特に、転職の自由化や企業の支援義務の増加、手続きの複雑化といった点に注意が必要です。
技能実習制度では、受け入れ企業が一貫して技能実習生を管理する体制が取られていましたが、特定技能1号では労働者の転職が認められるため、企業にとっては人材流出のリスクが高まることになります。
転職の自由化による人材流出リスク
特定技能1号へ移行すると、同じ業種内での転職が可能になります。これにより、技能実習制度では発生しなかった人材の流出が懸念されます。
1. 特定技能1号では、労働者がより良い条件を求めて転職できる
2. 転職を希望する外国人労働者が増える可能性
3. 企業側の対策が求められる
転職による人材流出を防ぐためには、企業側も労働条件や環境の改善を図る必要があります。
4. 受け入れ企業の負担増加
特定技能1号では、外国人労働者の雇用が柔軟になった一方で、企業側が人材流出を防ぐための対策を講じる必要があるため、適切な受け入れ環境の整備が重要になります。
支援計画の義務化と企業側の負担増加
特定技能1号の外国人を受け入れる企業は、技能実習制度とは異なり、外国人支援計画の策定・実施が義務付けられています。 この支援計画は、特定技能外国人が円滑に日本で生活し、業務に適応できるよう支援するための仕組みですが、企業にとっては新たな業務負担やコストが発生する要因となります。
1. 外国人支援計画とは?
支援計画とは、特定技能外国人を受け入れる企業が生活面や職場環境のサポートを行うために作成する計画のことです。計画内容は法務省に提出し、適切な支援を提供することが義務付けられています。
支援計画には、以下のようなサポートが含まれます。
2. 企業にとっての負担増加
支援計画の策定と実施により、企業側には以下の負担が発生する可能性があります。
3. 企業が選択できる支援の方法
企業は、支援計画の実施方法として以下の2つの選択肢があります。
支援方法 | メリット | デメリット |
企業が自社で支援を実施 | 費用を抑えられる、外国人労働者との関係を強化できる | 社内で日本語対応・生活支援業務を行う負担が大きい |
登録支援機関へ委託 | 専門機関が支援を行うため、企業の負担が軽減される | 月額2~3万円の費用がかかる |
企業は、支援業務の負担をどこまで負えるかを考慮し、自社で支援を行うか、登録支援機関に委託するかを選択する必要があります。
4. 企業が注意すべきポイント
支援計画の義務化により、企業側の負担は増加するものの、適切なサポートを提供することで外国人労働者の定着率を高め、長期的な戦力として活用することが可能になります。
手続きや管理の複雑化と費用負担
特定技能1号への移行により、企業は在留資格の変更手続きや雇用管理の負担が増加する可能性があります。 技能実習制度では、監理団体が手続きを代行するケースが多いですが、特定技能では企業自身が手続きを進める必要があるため、管理業務が煩雑になることが懸念されます。
また、特定技能の受け入れには手続きにかかる費用や、外国人支援計画の実施コストなど、新たな支出も発生するため、事前に費用面の準備が必要です。
1. 手続きの複雑化
特定技能1号へ移行するためには、在留資格変更の申請が必要となります。企業は以下の手続きを行う必要があります。
2. 企業側の費用負担の増加
特定技能1号への移行に伴い、企業は以下のコストを負担する必要があります。
項目 | 費用目安 | 内容 |
在留資格変更申請費用 | 4,000円/人 | 出入国在留管理庁への申請手数料 |
登録支援機関の委託費用 | 月額2〜3万円/人 | 生活・職場適応支援の委託費用 |
社会保険・雇用保険の負担増 | 給与の約15% | 日本人と同等の福利厚生の提供が義務付けられる |
生活支援関連費用 | 数千円〜数万円 | 住居確保・日本語学習支援など |
特定技能1号では、技能実習制度よりも受け入れコストが増加する可能性があるため、事前にシミュレーションを行い、適切な予算を確保することが重要です。
3. 企業が注意すべきポイント
- 手続きのスケジュールを事前に把握し、計画的に進める
- 社内に管理体制を整備し、適切な受け入れができるよう準備する
- 登録支援機関の活用も検討し、企業負担を軽減する方法を模索する
特定技能1号の移行には、手続きや管理業務の増加、費用負担の増加といった課題があるものの、計画的に準備を進めることでスムーズな運用が可能となります。
移行に適した職種と業種の確認z
特定技能1号は、日本国内の人手不足を補う目的で設けられた制度であり、移行可能な職種は特定の業種に限定されています。企業が移行を検討する際には、自社の業種と、技能実習2号での業務内容が特定技能の対象に含まれるかを確認することが不可欠です。
1. 移行可能な業種一覧
現在、特定技能1号の対象となっている14の産業分野のうち、技能実習からの移行が認められている主な業種は以下の通りです。
産業分野 | 主な職種 | 移行のポイント |
介護 | 介護職員 | 日本語能力試験(JLPT N4以上)の合格が必要 |
建設業 | 型枠施工、鉄筋施工、土工、左官など | 企業が建設技能人材機構(JAC)に登録する必要あり |
製造業 | 機械加工、金属加工、電子部品製造、プラスチック成形 | 技能試験の免除対象が多く、移行しやすい |
食品製造業 | ハム・ソーセージ・ベーコン製造、水産加工、乳製品製造 | HACCP(ハサップ)対応の知識が必要 |
外食業 | 調理、接客、ホールスタッフ | 人手不足が深刻な分野であり、積極的に受け入れが進む |
宿泊業 | フロント業務、客室清掃、レストランサービス | 接客業務では一定の日本語能力が求められる |
農業・漁業 | 露地栽培、施設栽培、養殖業 | 季節労働者の受け入れが可能 |
2. 自社の業種が移行対象かを確認する方法
企業が、自社の業種が特定技能1号の対象に該当するかを確認するためには、以下の3つの方法を活用するとよいでしょう。
3. 企業が準備すべきこと
企業が特定技能1号への移行を検討する際、以下の準備を進めることでスムーズな受け入れが可能になります。
事前準備をしっかり行うことで、スムーズな移行を実現し、安定的な人材確保につなげることが可能となります。
受け入れに必要な手続きと期間の比較
技能実習2号から特定技能1号へ移行する場合、企業は在留資格変更手続きや雇用契約の見直し、外国人支援計画の策定など、技能実習制度とは異なる手続きを進める必要があります。
また、新たに特定技能の外国人を採用する場合と比較すると、移行の場合は試験が免除されるため、手続きがスムーズに進むというメリットがあります。しかし、技能実習制度と異なり、企業が主体的に在留資格申請や支援計画を管理しなければならないため、準備にかかる期間を把握し、計画的に進めることが重要です。
1. 技能実習から特定技能への移行手続きの流れ
手続き | 主な内容 | 必要期間 |
① 在留資格変更の申請準備 | 技能実習修了証明書、雇用契約書、支援計画書などの書類準備 | 約2週間 |
② 出入国在留管理庁への申請 | 企業が必要書類を提出し、在留資格変更申請を行う | 約1〜2か月 |
③ 在留資格の許可取得 | 在留資格変更が承認され、新たな特定技能ビザを取得 | 約2週間 |
④ 就労開始 | 企業との契約に基づき、特定技能1号として勤務開始 | – |
通常、特定技能1号への移行手続きは、申請から許可まで約1.5〜3か月程度かかるため、在留期限が切れる前に余裕をもって申請を進める必要があります。
2. 新規採用の場合との比較
技能実習2号から特定技能1号へ移行する場合と、新規で特定技能の外国人を採用する場合では、手続きにかかる期間や要件が異なります。
項目 | 技能実習2号から移行 | 新規採用(海外からの入国) |
試験の必要性 | 不要(技能試験・日本語試験免除) | 必須(特定技能評価試験・日本語試験合格が必要) |
在留資格の変更申請 | 必須(技能実習→特定技能) | 必須(海外からの新規入国) |
審査期間 | 約1.5〜3か月 | 約4〜6か月(試験合格・ビザ申請を含む) |
企業の負担 | 支援計画の作成・登録支援機関の利用が必要 | 入国管理手続き・生活支援の手間が増加 |
雇用のスムーズさ | 即戦力として活躍しやすい | 日本の業務環境に慣れるまで時間がかかる |
技能実習2号からの移行の場合、試験が免除されるため、新規採用に比べて短期間で手続きが完了し、即戦力として活用できるメリットがあります。一方で、企業側は受け入れ体制を整え、外国人支援計画を適切に実施する責任を負うため、支援業務の準備をしっかりと行う必要があります。
3. 企業が注意すべきポイント
技能実習から特定技能への移行は、新規採用と比較するとスムーズに進められるが、企業側の管理負担が増加する点に注意が必要です。適切な準備を行い、計画的に手続きを進めることで、外国人労働者のスムーズな移行と雇用の安定を実現することができます。
まとめ:技能実習から特定技能への移行を成功させるために
技能実習2号から特定技能1号への移行は、企業にとって長期的な人材確保の有効な手段となります。
特に、技能実習を修了した外国人労働者は、すでに業務経験があるため、新規採用よりも即戦力として活用しやすいメリットがあります。
しかし、転職の自由化による人材流出リスクや、支援計画の義務化、手続きの負担増といった課題もあるため、企業は慎重に準備を進める必要があります。
移行を成功させるためには、業種や職種の適合性を確認し、適切な受け入れ体制を整えることが重要です。
技能実習から特定技能への移行は、人材確保の面では大きなメリットがある一方で、企業側の責任や管理負担が増加する側面もあります。
企業が適切な準備を行い、移行手続きをスムーズに進めることで、特定技能外国人を安定した労働力として活用し、長期的な事業成長につなげることが可能となります。
企業は、受け入れ体制の整備、転職リスクの管理、適正な労働条件の提供を徹底し、特定技能外国人が安心して働ける環境を構築することが求められます。