近年、人手不足が深刻化する建築物清掃業では、外国人の採用が注目されています。特に特定技能ビルクリーニング分野では、一定の試験に合格すれば特定技能1号として日本で働くことが可能です。本記事では、制度の概要から対応可能な業務内容、採用条件や在留資格の申請方法、さらに受け入れ企業が整えるべき体制や支援機関の活用方法まで、必要な情報をわかりやすく解説します。
特定技能外国人の雇用を検討している方に向けて、制度の正しい理解と実践的なポイントをお伝えします。
特定技能ビルクリーニングってどんな制度?
特定技能ビルクリーニングは、清掃業界の人手不足を背景に、外国人材の受け入れを可能にした制度です。一定の基準を満たせば、外国人が日本で建物内の清掃業務に従事することができます。
制度としての枠組みが整っており、すでに多くの企業が活用を始めています。
特定技能制度の基本とビルクリーニング分野の特徴
この制度では、「特定技能1号」の在留資格が適用されます。特定技能1号は、特定の業務において一定の技能と日本語力を持つ外国人に対して認められる資格で、ビルクリーニング分野もその一つです。
制度の特徴は以下のとおりです。
- 在留期間は最長5年間(1年または6ヶ月ごとの更新制)
- 家族の帯同は原則不可
- 必須要件:技能評価試験と日本語能力試験の合格
- 対象業務:建築物内部の清掃業務(床・窓・トイレ等)
技能実習制度とは異なり、即戦力として現場に立てることを前提にした制度であり、実践的な就労が可能です。
清掃業界の人手不足と外国人材の必要性
建築物清掃業は、日本人の従業員数が年々減少しており、慢性的な人材不足に悩まされています。とくに次のような課題が浮き彫りになっています。
- 高齢化による離職者の増加
- 若年層の清掃業への就業敬遠
- 長時間労働や体力的負担がネックに
こうした課題に対し、特定技能制度を通じて外国人材を受け入れることで、労働力の安定化が期待されています。
外国人を採用する企業が増えている理由
外国人を採用する企業が増えている背景には、制度の利便性とサポート体制の整備があります。特定技能1号の取得者は、試験に合格しているため一定のスキルと日本語力が保証されており、現場にすぐ適応しやすいです。
また、企業は以下のような理由で外国人採用を進めています。
- 日本人の採用が困難な状況が続いている
- 即戦力として現場に入ってもらいやすい
- 登録支援機関のサポートで負担を軽減できる
支援機関による生活・業務支援があることで、初めて外国人を受け入れる企業でも取り組みやすい環境が整っています。
外国人が担当できる仕事の内容
特定技能ビルクリーニングの在留資格では、外国人が従事できる業務内容があらかじめ定められています。対象となる作業は、建物内部の日常清掃が中心です。企業側は業務範囲のルールを理解し、適切な配置とサポート体制を整えることが求められます。
清掃作業の主な内容
従事できる作業は、建築物環境衛生総合管理業の範囲内に限られます。具体的には、以下のような清掃業務が対象です。
- 床のモップ清掃や機械を使った洗浄作業
- 窓・ガラス面の拭き上げ
- トイレ、洗面所など水回りの衛生管理
- 階段・廊下・エントランスなど共用部の清掃
- ごみの分別と回収作業
これらの作業は、多くの場合チームで協力して行われ、作業手順や安全管理を守る姿勢が求められます。
特定技能で認められている業務と制限事項
ビルクリーニング分野における業務範囲は、制度上で明確に限定されています。注意点としては以下のような内容があります。
- 建物の外構清掃や植栽管理などは対象外
- 高所作業や危険を伴う特殊作業は原則除外
- 工事現場の清掃や工業用設備のメンテナンス等も対象外の可能性あり
したがって、事前に作業範囲を確認し、対象外の業務を誤って割り当てないよう注意が必要です。
清掃現場で求められるスキルと心構え
現場で外国人材に期待されるのは、基本的な清掃技術に加えて、以下のようなスキルと意識です。
- 簡単な日本語でのやり取り(指示を理解し、報告ができる程度)
- 清掃器具・洗剤などの取り扱いルールを守る
- 手順・マニュアル通りに作業を進める
- 職場でのマナー(時間厳守、清潔な服装など)
企業側には、これらを丁寧に指導し、業務に慣れるまでの期間、安心して働ける環境を提供することが求められます。特に初期段階では、研修や同行指導が効果的です。
採用に必要な条件と試験について
特定技能ビルクリーニング分野で外国人材を採用するには、事前に定められた評価試験や日本語能力試験に合格する必要があります。また、技能実習制度からの移行も可能であり、一定の条件を満たすことでスムーズに雇用へと進むことができます。
技能評価試験の概要と評価基準
特定技能1号を取得するには、分野ごとの「技能評価試験」に合格しなければなりません。ビルクリーニング分野では「ビルクリーニング分野特定技能1号評価試験」が実施されており、基礎的な清掃技術や安全衛生に関する知識が問われます。
試験内容は以下の通りです。
- 床やトイレ、窓の清掃作業に関する実技・知識
- 器具や洗剤の使い方、安全対策の理解
- 清掃作業に必要な基本マナーや報告方法
この試験は、国内外で定期的に実施されており、合格すればビルクリーニング分野での在留資格申請が可能になります。
日本語能力試験の要件と対象レベル
技能評価試験に加えて、外国人材には一定の日本語能力も求められます。これは、業務上の指示理解や日常会話のために必要な能力です。
認められている試験は以下のいずれかです。
- 日本語能力試験(JLPT)N4以上
- 国際交流基金日本語基礎テスト(JFT-Basic)
N4レベルは、日常的な簡単な日本語を理解できる水準です。業務上の簡単な指示に対応できるかが重要な判断基準となります。
技能実習修了者との違いと移行のポイント
特定技能と技能実習制度には目的と運用の違いがあります。技能実習は「技能移転」を目的としていますが、特定技能は「即戦力の確保」が前提です。
ただし、以下の条件を満たす場合、技能評価試験を免除して特定技能1号への移行が認められます。
- ビルクリーニング職種の技能実習2号を良好に修了していること
- 実習期間中の成績・勤務状況が評価されていること
この移行制度を活用すれば、試験を受けることなく在留資格の申請に進むことができるため、受け入れ企業側にもメリットがあります。
在留資格の取り方と雇用の流れ
特定技能ビルクリーニング分野で外国人材を雇用するためには、所定の手続きを経て在留資格「特定技能1号」を取得する必要があります。申請には企業と本人双方の準備が必要であり、計画的に進めることが重要です。
特定技能1号の申請ステップ
在留資格取得の基本的な流れは以下の通りです。
- 外国人本人が技能評価試験・日本語試験に合格
- 雇用する企業が、労働条件などを記載した雇用契約を締結
- 必要書類をそろえて、出入国在留管理庁に在留資格認定証明書を申請
- 認定後、本人が査証(ビザ)を取得し日本へ入国
- 入国後、実際の就業開始に合わせて在留カードを受け取る
この流れは原則として新規入国者向けですが、国内にいる留学生や技能実習修了者が切り替える場合も、同様の申請が必要です。
企業が用意すべき書類と準備
受け入れ企業には、以下のような準備が求められます。
- 雇用契約書(労働時間・給与・勤務地などを明記)
- 支援計画書(登録支援機関を利用する場合はその契約書)
- 会社概要や直近の決算書類(経営の安定性を示す)
- 従業員数や受け入れ人数の内訳資料
- 業務内容が建築物清掃業であることの確認書類
これらは、外国人材が安定して働ける環境を整えていることを示すために重要です。申請前に不備がないか、入念に確認しておくことが必要です。
雇用前に確認すべき注意点
申請や雇用にあたっては、次のような注意点にも配慮が必要です。
- 雇用人数は受け入れ体制に見合った数にする
- 社会保険・労働保険への加入は必須
- 日本人と同等の待遇で雇用する必要がある
- 就業内容が在留資格の範囲を超えないよう管理
また、事前のオリエンテーションや生活支援体制の準備も大切です。申請から入国まで数ヶ月かかることもあるため、早めの準備とスケジュール管理が求められます。
採用後のサポートと今後の展望
外国人材を採用したあとは、働きやすい環境の整備と継続的な支援が重要です。特定技能制度では、企業だけでなく登録支援機関が支援を担う仕組みも整っており、制度を正しく活用することで、定着率や労働環境の向上につながります。
登録支援機関の役割と活用方法
登録支援機関とは、企業に代わって外国人材の生活・業務支援を行う公的に認可された機関です。支援計画に基づき、以下のようなサポートを提供します。
- 入国・転居時のサポート(空港出迎え・住居手配など)
- 日本語学習の案内
- 生活ルールやマナーの指導
- 相談窓口の設置(トラブル対応や行政手続きの補助)
- 職場訪問や定期的な面談
企業が直接支援を行うことも可能ですが、制度に不慣れな場合は登録支援機関と契約することで安心して運用できます。
労働環境と生活支援体制の整備
特定技能外国人が長く安心して働くためには、職場環境と生活面の両方において配慮が必要です。以下のような体制が求められます。
- 日本人と同等の労働条件・待遇の提供
- 長時間労働や危険作業の管理
- 通訳や多言語マニュアルの整備
- 医療機関へのアクセス支援
- 相談しやすい社内体制の構築
また、文化の違いを理解し、相互に尊重し合う職場づくりも重要です。些細なトラブルが離職や不満につながる可能性があるため、日常のフォローがカギとなります。
ビルクリーニング分野における今後の展望
清掃業界では、今後も人材不足の傾向が続くと予測されています。これにより、外国人雇用の重要性はさらに高まっていくでしょう。
今後の展望としては以下の点が挙げられます。
- 清掃業のDX化・マニュアルの標準化と相性が良い
- 多国籍チームの編成による現場の活性化
- 法改正や制度運用の見直しによる受け入れ拡大の可能性
- 長期的には特定技能2号への対象拡大の議論も視野に
企業にとっては、継続的に外国人材を活用する視点と、それに応じた社内体制のアップデートが求められます。
まとめ
特定技能ビルクリーニング分野は、深刻な人手不足を背景に、即戦力としての外国人材を受け入れる制度として注目されています。技能評価試験や日本語能力試験の合格を経て、在留資格「特定技能1号」を取得した人材は、建築物清掃業の現場で重要な役割を担います。企業側には、適切な雇用方法の理解と支援体制の整備が求められ、登録支援機関の活用も効果的です。今後の業界の発展には、外国人雇用に対する正しい理解と長期的な視点が欠かせません。